平成25年度予算特別委員会(農政環境部)

石井秀武委員

農業を営むことは、並大抵のことでは出来ないと思いますが、そこに生きがいや魅力を感じて、これから新たに就農していく人に対して県として何ができるかという視点から質問させていただきます。

1 園芸特産物の新品種の育成について

最初の質問は、園芸特産物の新品種の育成についてです。

近年では、産地間競争が激化し、その競争に打ち勝っていくために、いかにして魅力ある作物や品種を導入するかが大きな課題であるとともに、大消費地の近郊という本県のポテンシャルを生かすためにも、他府県の産地に対抗し得る品種の開発が必要であるとの思いから、平成22年の9月定例会に引き続き質問させていただきます。

その際にも例示しましたが、「いちご」に関しては、多くの新規就農者が栽培を希望されているようです。また、農林水産技術総合センターにおいても「兵庫県におけるイチゴ高設栽培への培地気化冷却法」など、新しい栽培技術の普及に積極的に取り組んでいただいており、大変ありがたく感謝しています。

現在、兵庫県独自の新品種の開発に向けて、県内のいちご農家で実証栽培に取り組んでいただいており、いよいよ兵庫県育成のいちごが市場に出される日が近づいているのではないかと期待しています。

そこで、園芸特産物については、消費者ニーズの多様化やその移り変わりの早さ、さらには産地間競争も激化するなど、本県の園芸特産物市場をめぐる環境は厳しい状況に置かれていますが、市場における地位の維持・拡大を図っていくには、引き続き、新品種を積極的に育成・選定していく必要がありますが、現在の取組状況について、お伺いします。

総合農政課長(石田均)

 野菜、果樹、花などの園芸特産物については、消費者ニーズの多様化や産地間競争が激化していることから、県産農産物の特産品化に直結した技術開発が必要と考えている。
 このため、イチゴについては、農林水産技術総合センターにおいて、直売が主流の本県産地に適した品種の育成に生産者と協働して取り組んでいるところである。現在、糖度が高く食味の良い年内出荷ができる系統と、果実が大きく色が濃くて輸送性に優れる二つの系統を選抜しているところである。現在、平成26年冬の本格出荷をめざして、最終的な選抜に向けた現地実証を進めているところである。
 また、枝豆の端境期である9月の出荷をめざして開発した黒大豆枝豆の新品種「さとっこ姫」や「黒っこ姫」は、昨秋の試験販売で完売するなど、消費者から高い評価を得ているところである。さらに、従来のキクのイメージを払拭する、結婚式など華やかな場面に似合う洋花風のキクとして開発した「サンバマム」シリーズは、オランダで10年に一度開催される世界最大の花の祭典「フロリアード2012」でも優秀品種に選定されて、大阪、兵庫の市場から高い評価を得ている。また、ことしの秋には東京にも出荷される予定である。
 今後とも、生産者や関係団体と連携して、優れた特性を持つ品種を育成・選定するとともに、併せて栽培技術の開発と普及に取り組み、市場における県産園芸特産物の競争力強化につなげていきたいと考えている。

石井秀武委員

2 野菜ICT産地モデル事業について
(1)事業目的について

次に、野菜ICT産地モデル事業について、お伺いします。

野菜ICT産地モデル事業は、大消費地に隣接する立地条件を生かして、高付加価値型の野菜生産を展開していくため、来年度の農政環境部の目玉事業であるチャレンジ事業として計画されています。

先ほどの質問でも触れましたが、産地間競争に打ち勝つためには、魅力ある作物やオリジナル品種を積極的に市場へ提供していく必要があります。その一方で、既に栽培方法が確立された作物や品種については、生産力の強化に加えて、多様化する消費者のニーズに応じて適時・適量・適質の野菜を安定的に供給できるよう、組織体制を強化していくことが、産地間競争に打ち勝っていく上でも重要な点であります。

そこで、今回、情報通信技術ICTである携帯端末とクラウドを活用した兵庫県版システムを構築・普及し、ICTを活用した野菜生産産地の育成をするとのことですが、その狙いについて、お伺いします。

また、今回、農政環境部のチャレンジ事業とされたわけでありますが、この事業における‘チャレンジ’の意義についても併せてお伺いします。

農政環境部長(伊藤聡)

 都市近郊である兵庫の強みを生かし、産地間競争に打ち勝っていくためには、消費者ニーズを的確に捉え、市場動向に応じた対応を行っていく必要があり、野菜ICT産地モデル事業については、これらに対応するための先進的な取り組みであると考えている。
 具体的には、消費者に対する安全・安心の情報を提供するため、生産現場において携帯端末を使い、各生産段階の肥料・農薬の使用状況や作業内容を画像も使い記録し、生産履歴情報として蓄積の上、インターネットで消費者に提供する仕組みを構築する。
 また、産地全体の栽培技術をハイレベルに統一し、消費者の望む高品質な野菜生産を行うため、経験の浅い生産者でもベテランと同じ栽培技術が実践できるよう、ベテラン生産者の栽培ノウハウを標準化し、現場で携帯端末の画面を確認しながら作業を行うシステムを構築する。
 さらに、ほ場センサーから気温などのデータを収集し、生育記録と照合することで、適期適確な栽培管理が行えるようにする。
 あるいは、販売においても、生産団地全体として、ロットの確保と安定的な供給が図られるよう、産地全体の生育状況や市場動向を把握しながら、生産計画管理が行えるようにしていくこととしている。
 ICTの活用により、このようなことを実現していきたいと考えている。
 このICTモデル事業は、一つには、農業分野で導入が始まったばかりのICT技術を活用するというチャレンジ、二つには、これまで経験のない生産者がICT活用に取り組むというチャレンジ、三つとして、今後ICTをモデル産地から県下の野菜産地に広めていくというチャレンジと、大きく三つのチャレンジの意義があると考えている。
 本事業を契機に、農業におけるICTシステムの活用を図り、生産性の向上と収益性の高い産地育成によって、競争力の高い兵庫の農業を実現していく。

石井秀武委員

(2)品目の選定理由等について

次に、品目の選定についてお伺いします。

来年度は、私の地元神戸市西区をモデル産地候補として、キャベツ栽培で取組む方向で検討していると聞いています。キャベツは、加工・業務用、家庭用ともに需要の大きい野菜の一つでもあり、県下では、玉ねぎ、レタスに次ぐ出荷量では第3位となっています。

素人考えで申し訳ありませんが、ハウス栽培の軟弱野菜なら、天候に大きく左右されることなく、計画的に実証することができると思いますが、露地野菜であるキャベツを選定しようとする理由についてお伺いします。

また、今後、他品目への展開していくのか、今後の見通しについても併せてお伺いします。

農産園芸課長(辻内郁夫)

 ICTの活用は、一つには、広範囲に分散したほ場における単一作物の栽培管理で、二つには、技術レベルがさまざまな生産者によって取り組まれる状況等において、高度な栽培管理や作業記録等を蓄積する場合に、高い効果を発揮できるものと考えている。このため、集落営農等で取り組まれるキャベツの露地栽培でまず導入を進めることとしているところである。
 同様に、レタス、タマネギ、ハクサイなどの露地野菜においても、展開していくことが容易と考えている。
 ご指摘をいただいたハウス栽培の軟弱野菜については、ICTを活用した作業記録の蓄積により、生産履歴等を消費者へ発信することが可能であることから、今後その導入についても検討してまいりたいと考えている。

石井秀武委員

 兵庫県版農業クラウド構築についての考え方は分かった。ただ、お百姓さんが丹精込めて作ったお米とか野菜を粗末にしてはいけないと言われて育った私にとって、残念ながら、機械化、省力化、大型化、効率化といった農業の工業化については、作物ではなく工場で生産する製品のようなイメージを感じてしまい、正直、抵抗感のあるところである。この野菜ICT産地モデル事業が確立されると、農家ではなくても、企業も経営体として参画しやすくなるのではないか。まさに、最近はやりの植物工場の農地版、露地版のようなイメージであり、複雑な思いがしている。
 一方、県産自給率の向上、農家の経営体質の強化につながる取り組みになるのであれば、このチャレンジ事業が将来、本県農業にとって大きく実を結ぶのではないかと期待もし、その成果を楽しみにしているところである。
 そのことを申し上げ、次の質問に移らせていただく。

3 新規就農者の育成・確保対策について
(1)新規就農者の育成状況について

次に、新規就農者の育成状況についてお伺いします。

高齢化による農業従事者の減少が急速に進む一方で、新規就農者の育成が追いついておらず、県では、今年度より新規就農者の育成目標を従来の200人から300人に引き上げました。

従来の県・地域の就農支援センターを中心とした取組に加え、「青年就農給付金の給付事業」、「JAや企業等による研修農場の設置を支援する事業」、新規参入者等の立ち上がりを支援するため、地域の指導的農業者に「後見人的応援活動を委託する事業」などに取組まれています。

そこで、これまでの60歳未満の新規就農者の農業経営の状況について、①就農者数、②定着率、③就農場所、④就農後の経営作目などを中心にお聞かせ願います。

また、これまでの新規就農に関する施策の成果・効果について、どのように評価しているのか、併せてお聞かせ願います。

農業経営課長(天野正治)

 新規就農者の育成・確保については、これまで、県、地域の就農支援センターを中心に、就農希望者に対して、就農相談から定着まで、農業技術・経営手法の習得のための研修の実施、機械・施設の整備に対する無利子資金の貸し付け、さらには農業改良普及センター等による就農時・就農後の継続的な技術・経営指導等によって、円滑な就農と早期の経営確立に向けた支援を行ってきた。
 その結果、直近5年間の60歳未満の新規就農者の状況は、まず就農者数については、平成19年度136人、20年度184人、21年度180人、22年度187人、23年度193人とおおむね200名で推移しており、これらの者の昨年度末における定着率は約70%となっている。
 また、就農場所については、都市近郊の神戸・阪神地域の割合が約30%を占めており、経営品目は都市近郊の利便性を生かして、施設による軟弱野菜類、トマト及びイチゴ等が多い傾向にある。一方、中山間地域の多い地域を見ると、但馬が約10%、西播磨が約8%にとどまっており、経営品目は水稲などの土地利用型作物で、親元に就農するような傾向である。
 このように、従来の施策でも、旧ビジョンの新規就農者の年間確保目標200人はおおむね達成できたところであるが、高齢化等による農業者の減少、あるいは定着率が7割程度であること、また、就農地に地域偏在があることなどの課題があると認識をしている。

石井秀武委員

(2)今後の新規就農者の育成について

新規就農者の増加要因として、青年就農給付金の魅力による就農喚起、農の雇用事業の拡大による雇用就農の大幅増、就農スタートアップ支援事業による就農への踏み切り易さの向上などが挙げられるところですが、昨年2月の代表質問でも触れましたとおり、前政権下で画期的に実施されるようになった青年就農給付金によるところがやはり大きいのではないかと思っています。

しかしながら、冒頭のコメントでも触れましたように、農業を営むことは、並大抵のことでは出来るものではありませんので、審査が甘いと安易な考えや準備不足の就農者が増えて、制度の主旨を達成することができず、失敗を助長することにもなりかねません。新規就農者に対しては、事業経営者としの自覚と決意を促すよう、青年就農給付金の制度運用については、厳格に行っていただきたいところです。

先日、自民党の原テツアキ議員が一般質問で、青年就農給付金(経営開始型)の支給要件である「人・農地プラン」の課題と対策について質問されました。ご答弁では、今年度中に127プランが策定される見込みで、来年度にかけて集中的にプランの策定に取り組むことでしたので、是非とも、高齢化や後継者不足、耕作放棄地の増加など、地域が抱える「人と農地の問題」の解決に積極的に取り組んでいただきたいと思います。

少し、長い前置きとなりましたが、先ほどのご答弁にもありましたように、どうしても新規就農者が都市近郊に偏り、地域偏在が生じてしまいます。

そこで、今後は、この制度がある程度定着してくると、県下で発生している耕作放棄地や遊休農地対策をはじめ、本県農業の充実・強化ひいては再構築の面でも、ただ単に新規就農者を育成するのではなく、必要なところに必要な人材を育成していくといった観点で、政策的・戦略的に新規就農者を育成していくことも必要ではないかと考えますがご所見をお伺いします。また、県として、新規就農者の地域偏在について、そもそもどのように認識されておられるのか、併せてご所見をお伺いします。

農政企画局長(北川稔男)

 新規就農者の育成に際しては、安定して継続的に経営できる形での就農を促す、すなわち、定着率を高めていくことが重要であると考えている。この点で、農業生産面からは、日照や土壌などの諸条件が栽培作物に適している地域、また、経営面からは、初期投資が比較的抑えられて収益も確保しやすい作目で就農する。その上で、輸送コストの低減である等々の観点からすると、消費地近郊で就農できるというのが、新規就農者にとってはやはり理想的な形である。
 こうしたことから、先ほどお答えしたように、神戸・阪神地域での就農が30%程になっているのは、こうしたものが如実に表れているのかと考えているところである。一方で、耕作放棄地、獣害の多い地域などでの就農は、やはりいろいろと諸条件が困難なものがある。ただ、県全体のバランスを考えると、その改善に努めていくことが、私どもにとっても重要なことであると考えている。
 このため、これまでの取り組みに加えて、高齢化、後継者不足等の課題に対して、誰がどのような農業を、どのように農地を利用してやっていくのか、そういう今後の地域農業のあり方を定める、人・農地プランを策定して推進していきたいと考えている。この人・農地プランの中で、中心経営体に位置づけられた新規就農者を地域全体が支えていくという形で進めていくとともに、その所得の確保のための青年就農給付金を活用していきたいと考えている。
 また、就農初期には、地域の先進農家が栽培技術や経営指導を行うとともに、農地探しや販路確保等の支援を行っていく。また、多様な地域で団体による研修農場の設置を支援していき、その地域の気候等を踏まえた作物栽培の技術習得への支援、また地域になじんでいただくこと、また農地を探すこと等の支援も同時に行っていきたいと考えている。
 こうした取り組みを進めている途中であるが、本年度は、24年8月末で185名の新規就農者がある。今後、年間目標の300名を達成できるよう努力していくので、よろしくお願いする。

石井秀武委員

 新規就農者の経営作物の偏りや、就農地の地域偏在の解消を初め、新規就農者が農業に生きがいや魅力を感じて飛び込んでこれるよう、県下全体のバランスもしっかり見ながら、適宜適切な指導を政策的、戦略的な見地を持って取り組んでいただきたいと思っているので、よろしくお願いする。
 まだ少し時間があるようなので、次につなぐためにも、私の農政環境部に対する思いを述べ、質問を終わりたいと思う。
 今、TPP協定への参加について、さまざまな観点から議論がされており、また、TPPだけでなく、中国、韓国やEU等とのFTA交渉も気になるところである。しかし、いずれにしても、経済のグローバル化が進行していく中では、自国の産業を守るための関税という手段には限界があり、やはり農業自身の基礎体力を養い、競争力をつけていくことが大切であり、そのためにはまず生産コストを低減すること、そしてより付加価値の高いものを作ることが基本となるわけで、これに加えて、社会経済とともに刻々と変化する消費者ニーズへの対応力も必要となる。
 また、これからの社会は高齢世帯や単身世帯が増加すると予測されているが、高品質志向、安定性志向が高まる一方で、食の外部化、簡便化も進んでおり、いわゆる食の二分化といった、こういったニーズについても積極的に応えていく必要があると思う。
 本県では、県下各地で多様な条件のもとで農業が営まれており、それがゆえに、それぞれの条件に応じたきめ細やかな対応や施策の展開が望まれている。
 農政環境部の皆様方におかれては、このような多様なニーズ、多様な条件に応じた的確な施策を戦略的、機動的に行っていただくことを期待しているので、そのことをお願い申し上げ、私の質問に代えさせていただく。